くらげnote

"ぼやき" by くらげ(fal)

有理数となる三角関数の値

この記事は旧ブログからの移植です.

関連記事 fal-math.hatenablog.com

ここから検索用:

有理数となる三角比 page. 1 1 問題 とても有名な大学入試問題がある. 問題(京都) tan 1◦ は有理数か.(tan1 は有理数か.) 問題文の簡潔さが有名であり, 証明自体は背理法と加法定理を組み合わせることで証明できる. この問題を一般化してみる. 問題 A. cos θ, sin θ, tan θ が有理数となる条件をそれぞれ求めよ. 私はこの問題をまだ解けていないので, 少し条件を追加した次の問題を, 今回は解く. 問題 B. 有理数 p に対して,cos pπ, sin pπ, tan pπ が有理数となる条件をそれぞれ求めよ. これは次のように言い換えても良い. 問題 B′. 有理数 q に対して,cos q◦, sin q◦, tan q◦ が有理数となる条件をそれぞれ求めよ. written by faℓ

有理数となる三角比 page. 2 2 問題を解くための準備 以下の 4 つの補題を, 後の証明で用いる. 補題 1. チェビシェフ多項式 cos kθ は cos θ の多項式として表せる. とくに,cos θ = x とおくと x の多項式 Tk(x) を用いて cos kθ = Tk(x) と表わせ, Tk(x) = x (k = 1) 2x2 − 1 (k = 2) 2xTk−1(x) − Tk−2(x) (k ≧ 3) 補題 2. チェビシェフ多項式の性質 (i) Tk(x) の次数は k で, 最高次の係数は 2k−1 である. (ii) Tk(x) のすべての係数は整数である. (iii) T2k−1 の定数項は 0, T2k の定数項は (−1)k である. 以上 2 つの証明は次の記事に載っている. http://falmath.starfree.jp/blogs/chebyshev.html 補題 3. 自然数 m と n が互いに素ならば, ma = nb + 1 を満たすような自然数 a, b が存在する. [ 証明 ] まず, m, 2m, · · · , nm のそれぞれを n で割った余りがすべて異なること を示す. 余りが等しくなる 2 数 sm, tm(1 ≦ s < t ≦ n) が存在したとすると (t − s)m は n の倍数. m と n は互いに素なので, (t − s) は n の倍数, すなわち n で割り切れる. こ れは 0 < t − s < n に矛盾. よって, n 個の数 m, 2m, · · · , nm のうち n で割った余りが 1 のものが唯一つあ るので, それを am とすれば ma = nb + 1 を満たす. ■ 補題 4. anxn + an−1xn−1 + · · · + a1x + a0 = 0 (各 ak は整数, a0 ̸= 0) が有理数解 q p を持つ ⇒p は an の約数かつ, q は a0 の約数 証明は次の記事に載っている. http://falmath.starfree.jp/blogs/yurisukai.html written by faℓ

有理数となる三角比 page. 3 3 cos pπ が有理数となる必要十分条件 定理 1.cos pπ が有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数 n と整数 m に対し, 以下の条件は同値. (1) cos m n π が有理数 (2) n = 1, 2, 3 注意:普通, 有理数といえば互いに素な整数 a, b(a ̸= 0) に対し b a と表せる数のこと であるが, 分母を正に限定しても(分子を負にすれば負の数も表現できるので)問題 ない. [ 証明 ] (2)⇒(1) を示す. cos mπ = (−1)m cos mπ 2 = 0 (m は 2 で割り切れない) cos mπ 3 = ±1 2 (m は 3 で割り切れない) となりそれぞれ有理数である. (1)⇒(2) を示す. 補題 1 より, cos θ が有理数 ⇒cos kθ が有理数(k は自然数.) これと補題 3 を用いることで, つぎの関係を得る. cos m n π が有理数 ⇒ cos ma n π が有理数 ⇒ cos nb + 1 n π が有理数 ⇒ cos ( bπ + π n ) が有理数 ⇒ (−1)b cos π n が有理数 すなわち, 仮定より cos π n は有理数. (i) n ≧ 5 である奇数のとき Tn(cos θ) = cos nθ と定めたので, Tn ( cos π n ) = cos ( n · π n ) = −1 また, 補題 2 より n が奇数のときは Tn(x) は次のように表せる. Tn(x) = 2n−1xn + a1xn−1 + · · · + an−1x Tn ( cos π n ) = 2n−1 cosn π n + a1 cosn−1 π n + · · · + an−1 cos π n written by faℓ

有理数となる三角比 page. 4 したがって 2n−1 cosn π n + a1 cosn−1 π n + · · · + an−1 cos π n + 1 = 0 いま, 仮定より cos π n は有理数なので, 方程式 2n−1xn + a1xn−1 + · · · + an−1x + 1 = 0 は(cos π n という)有理数解を持つ. 補題 4 より, cos π n = ± 定数項の約数 最高次の係数の約数 = ± 1 2k (k = 0, 1, · · · , n − 1) k = 0 のとき, cos π n = 1 となる. すなわち, π n が 2π の整数倍となればよいが, 場 合分けの際の仮定より n ≧ 5 であるため不適. k = 1, · · · , n − 1 のとき, cos π n = 1 2k ≦ 1 2 であるが, 場合分けの際の仮定より n ≧ 5 であるため, cos π n > cos π 3 = 1 2 より不適. よって,n ≧ 5 である奇数のときは矛盾. (ii) n が 4 の倍数のとき 仮定より自然数 l を用いて n = 4l と表せる. cos π n = cos π 4l が有理数と仮定する と, 補題 1 より cos ( l · π n ) = cos π 4 = 1 √ 2 も有理数. これは矛盾. (iii) n が 10 以上かつ,4 で割ると 2 余るとき 仮定より自然数 l を用いて n = 4l + 6 と表せる. cos π n = cos π 4l+6 が有理数と仮 定すると, 補題 1 より cos ( 2 · π n ) = cos π 2l+3 も有理数. これは先程示した (i) よ り矛盾. (iv) n = 6 のとき cos π n = cos π 6 = √ 3 2 より有理数でない. 以上を合わせると, n = 5 以上の奇数 4 の倍数 10 以上の 4 で割ると 2 余る数 6 ⇔ n ≧ 4 のときに cos π n が無理数となることがわかった. n = 1, 2, 3 のときはすでに示したように有理数となる. したがって, cos m n π が有理数となるのは n = 1, 2, 3 のときのみ. ■ written by faℓ

有理数となる三角比 page. 5 4 sin pπ が有理数となる必要十分条件 定理 2.sin pπ が有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数 n と整数 m に対し, 以下の条件は同値. (1) sin m n π が有理数 (2) n = 1, 2, 6 [ 証明 ] (2)⇒(1) は計算すれば明らか. (1)⇒(2) を示す. 定理 1 より, 互いに素である自然数 k と整数 l に対し cos l kπ が有理数となるのは k = 1, 2, 3 のときのみ. ここで, cos l k π = sin ( l k π + π 2 ) = sin 2l + k 2k π となるので, (i) k = 1 のとき sin 2l+k 2k π = sin 2l+1 2 π (ii) k = 2 のとき,l が奇数となることに気をつけると, sin 2l+k 2k π = sin l+1 2 π = sin mπ (m は整数) ◀ 仮定より k と l は互 いに素 (iii) k = 3 のとき sin 2l+k 2k π = sin 2l+3 6 π このとき,l は 3 の倍数でないことから,2l + 3 と 6 は互いに素. すなわち, 分母が 1,2,6 のときのみであることが得られる. ■ written by faℓ

有理数となる三角比 page. 6 5 tan pπ が有理数となる必要十分条件 定理 3.tan pπ が有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数 n と整数 m に対し, 以下の条件は同値. (1) tan m n π が有理数 (2) n = 1, 4 [ 証明 ] (2)⇒(1) は計算すれば明らか. (1)⇒(2) を示す. tan m n π が有理数 ⇒ tan2 m n π が有理数 ⇒ 1 tan2 m n π + 1 が有理数 ⇒ cos2 m n π が有理数 ⇒ 1 + cos 2m n π 2 が有理数 ⇒ cos 2m n π が有理数 定理 1 より, cos 2m n π が有理数となるためには n = 1, 2, 3, 4, 6 である必要がある. ◀ n = 4, 6 のとき, 約 分することで分母がそ れぞれ 2,3 になる. 先 程の定理では既約分数 であることを仮定して いたため, 約分する必 要がある. n = 1, 2, 3, 4, 6 のとき,tan m n π が有理数になるかどうか確かめる. (i) n = 1 のとき tan mπ = 0 (ii) n = 2 のとき,tan m 2 π(m は 2 で割り切れない)は定義されない. (iii) n = 3 のとき,tan m 3 π = ± √ 3(m は 3 と互いに素) (iv) n = 4 のとき,tan m 4 π = ±1(m は 4 と互いに素) (v) n = 6 のとき,tan m 6 π = ± 1 √ 3 (m は 6 と互いに素) となるので, 有理数となるのは n = 1, 4 のみ. ■ written by faℓ

有理数となる三角比 page. 7 6 まとめ 最初の問題 B への解答は次となる. 問題 B. の解答 有理数 p に対して,cos pπ, sin pπ, tan pπ が有理数となる条件は, cos pπ が有理数 ⇔ p を既約分数で表したとき, 分母が 1,2,3 sin pπ が有理数 ⇔ p を既約分数で表したとき, 分母が 1,2,6 tan pπ が有理数 ⇔ p を既約分数で表したとき, 分母が 1,4 である. 言い換えた問題 B′ に対しては, 問題 B′. の解答 有理数 q に対して,cos q◦, sin q◦, tan q◦ が有理数となる条件は, 整数 n を用いて cos q◦ が有理数 ⇔ q = 60n, 90n sin q◦ が有理数 ⇔ q = 90n, 180n ± 30 tan q◦ が有理数 ⇔ q = 45n である. これはすなわち, 有名角とよばれる角の三角比にしか, 有理数となるものがないことを述べている. また逆 に, 例えば 3 : 4 : 5 の直角三角形の鋭角が, 無理数であることもわかる. written by faℓ